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<sui−setsu>
慶応大学の古川享教授がツイッターに信じられないような話を披露していた。
「大学院生を引率してシリコンバレーを訪問した時に、私から『英語で自己紹介しなさい』と促したところ、その学生君は真っ赤な顔で『I am a pen』と叫んだ……」
中学1年生の時の英語の教科書を思い出した。あれは確か「This is a pen」で始まっていた。この学生にはいたく同情する。私だってパニックになれば、似たようなことを口走りかねない。
脳科学者の茂木健一郎さんもツイッターで英語論を連続投稿していた。
「英語ができないのは、日本人の心性に深く根ざしていて仕方がない」
「本居宣長が、『いろはにほへと』以外の音は排除したのだ、という意味のことを書いているけれども、あれほど影響を受けた中国語の発音もほとんど入らず『日本語化』された。英語の発音やイントネーションも、それをやると日本人ではなくなるような気がするのかもしれない」
この「日本人でなくなる気がする」という指摘にはなかなか深いものがある。米国の黒人の発音が独特なのは無意識に「白人化」を拒んでいるのだ、という説がある。それに似ている。
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に反対する人たちのなかに、TPPなどやると日本がアメリカ化して日本でなくなる、と心配する人が結構いる。
論理でなく心情に着目すれば、TPPの反対論は幕末の尊皇攘夷(じょうい)論とあまり変わるところがないように思う。農本主義的でもあるから、私はこれを「尊農攘夷」と呼ぶことにしている。
この気分はよく分かるのである。アメリカはペリー提督からマッカーサー元帥、さらに近くは日米構造協議に至るまで、日本国の根本に手を突っ込んで大変動を起こしてきた国である。結果は悪くなかったと思うが、それがまたしゃくのタネだ。
あの人たちと再度、アレコレ開国論争をするのかと思うと、賛成派の私ですら気が重くなる。
しかし、若い人まで「尊農攘夷」ではいけない。私など「逃げ切り世代」だから、現状のままでもいいが、若い人は既得権ゼロなのだ。現状維持だとジリ貧である。変化にしかチャンスはない。
アメリカというとおびえたり、カッとなったり、平静心を失うのが旧世代である。若者にはその種のコンプレックスがない。TPPの意義は米国の大国主義の封じ込めにもあるのだ。ぜひトライしてほしい。(専門編集委員)
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【毎日新聞】 潮田道夫「TPPの反対論は幕末の尊皇攘夷論とおなじだ。開国派の私はこれを『尊農攘夷』と呼ぶことにしている」の続きを読む